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ニューズレターNo.1

会長挨拶(坂本百大)

ニューズレター発刊の辞

 永らく待望されていた学会のニューズレターがようやく発刊のはこびとなった。会員諸氏とともに同慶に堪えない。

 日本科学哲学会の創設は1968年のことであった。当時ようやく、科学哲学という分野で独立した学会をもつことが可能であり、また必要であるという共通の認識、確信が同志の間に行きわたった結果の決断、壮挙であった。爾来、本学会は、順調にその基礎を固めつつ、急速な発展を遂げ、日本の思想界において科学哲学の浸透と、その水準の向上に少なからず貢献を果たして来たものと評価できよう。

 しかし、この間、時代の急激な変動とそれに伴う科学、技術の変化、革新は急であり、それに呼応するかの如く科学哲学そのものも、そのテーマ、方法、目的を含めて、大きく変動を続けて来た。そして今、われわれは二十世紀の末端に立っている。科学哲学、特に日本の科学哲学は二十一世紀に向けていかなる道を歩むことになるだろうか。

 二十一世紀の思想状況をポスト・モダンと規定するならば、その哲学は一般に多様な価値観に支えられた多元的人間観、世界観の探求ということになるだろうか。そして、それは、この四半世紀の間に発生し、発展した、「情報技術」による国際的かつ学際的な多領域にわたる情報、データの高度化と、分析の精密化、さらに話題の広域化などによって一層充実した内容をもつものとなることが期待されるのである。

 また、科学哲学が国際化する中で、最近にいたり、非西欧的諸国、とくに東アジアにおける科学哲学の胎動が始まっている。この、ヨーロッパとはまったく異質な伝統の学問思想に根ざす新しい東洋的科学哲学の動きは果してわれわれが戦後、馴れ親しんで来た欧米的科学哲学に対し、一石を投ずるものになるだろうか。あるいはさらに進んで革命的変革を迫るものに発展する可能性を秘めるであろうか。今、われわれは、われわれ日本思想のかつてのふるさとでもあった中国が、ポスト・モダンの哲学風潮の中でいかなる形で再生するか、注意深く見守りたい。また、東洋(東アジア)の思想を再生させ、その新たな波を西欧の科学思想、哲学思想へと結びつける役割りは確実に日本の科学哲学に課せられた、次世代へ向けての課題である。

 このように、科学哲学が劇的な変動を遂げようとするとき、われわれは科学哲学の諸テーマを巡る世界の動きに敏感でなければならない。今、日本は情報処理技術の最先端を開発しつつあり、その意味でも世界の情報を収集し、それを按配するための最高の位置にある。このとき、われわれの学会がニューズレターを発刊する意義はまことに大きいと考えざるを得ない。また、最近海外に出張、留学する機会をもつ会員の数も多い。それらの方々は是非、ご自身が訪問された地方の学問的風土、状況、あるいは、ご自身で体験されたことなどをニュースとして寄稿していただきたい。

 また、最近、科学哲学の近隣、周辺に数多くの新しい学会が設立されており、わが学会員の中でもこれら学際的学会でご活躍されている会員も多い。これらの方々からの周辺、近隣のニュースも歓迎したい。

 その他会員の意見の交換の場、あるいは、肩のこらない情報交換の場として利用するのも一方だろう。

 試行錯誤を繰り返しながら、本学会に最も適したニューズレターに作り上げて行きたい。会員諸氏の理解、援助と積極的な参加を期待したい。

 なお、このニューズレターは編集委員長西脇与作氏、事務局古田智久氏らの献身的な努力と、才覚により実現されたものであることを付記して、感謝の意を表したい。

会務報告

1993年11月21日 理事会
 議題:1.『科学哲学』27号編集委員長の人選
    2.第27回大会日程及び開催地の決定
    3.第27回大会実行委員長の人選

1993年12月11日 理事会
 議題:1.会費値上げについて

1993年12月11日 編集委員会
 議題:1.『科学哲学』27号特集テーマの決定

1994年3月26日 実行委員会
 議題:1.シンポジウムのテーマ及び人選
    2.ワークショップのテーマ及び人選
    3.特別講演の人選

大会報告

日本科学哲学会 第26回(平成5年度)大会

時:11月20日(土)・21日(日)
所:東京都立大学(講堂)
東京都八王子市南大沢1-1


11月20日(土)

研究発表(10:00〜12:00)

《A会場》 〔司会〕山田友幸(北海道大学)・小林道夫(大阪市立大学)
 1.渋谷繁明(早稲田大学) 意義と仮象
 2.大辻正晴(東京都立大学) 論理の自律―ラッセル判断理論とウィトゲンシュタイン―
 3.坂口恭久(放送大学) 論理と規約―クワインの「規約による真理」について―
 4.藤本隆志(東京大学) 命題的態度のプラグマティックス

《B会場》
〔司会〕服部裕幸(南山大学)・竹尾治一郎(関西大学)
 1.保田道雄(東海大学) 偏差値における‘sollen’と‘sein’
 2.小田桐忍(早稲田大学) 論理―倫理―法理 ―ケルゼンは新カント学派なのか―
 3.吉田伸夫(東海大学) 位相空間での求心的過程と「主観」
 4.石本 新(計算機科学研究所) レスニエウスキー存在論における個体の生成について

理事会・評議員会・大会実行委員会(12:00〜13:30)

総会(13:30〜14:00)

特別講演(14:00〜15:00)
〔司会〕沢田允茂(慶應義塾大学)
 量子力学的観測と物理的実在
 並木美喜雄(早稲田大学)

シンポジウム(15:15〜17:45)
〔司会〕横山輝雄(南山大学)
 現代進化論の理論的諸問題
 提題者 河田雅圭(静岡大学)
     内井惣七(京都大学)
     西脇与作(慶應大学)

懇親会(18:00〜20:00)(於・国際交流会館レストラン)


11月21日(日)

ワークショップ(I)(10:00〜12:00) ※:オーガナイザー

《A会場》
 ワークショップ I  フレーゲ『算術の基本法則』100年
 提題者 ※飯田 隆(千葉大学)
     田畑博敏(鳥取大学)
     土屋 俊(千葉大学)
     武笠行雄(電気通信大学)
     横田栄一(札幌学院大学)

《B会場》
 ワークショップ II
 量子論の哲学―EPRを中心にして―
 提題者 ※渡辺 博(中央大学)
     田中 裕(目白学園女子短期大学)
     石垣寿郎(北海道大学)
     藤田晋吾(筑波大学)

理事会・大会実行委員会・編集委員会(12:00〜13:20)

ワークショップ(13:30〜16:00)

《A会場》
 ワークショップ III
 論理学教育の現状と展望(1)
 提題者 ※中戸川孝治(北海道大学)
     白井賢一郎(中京大学)
     高橋 要(八戸工業高等専門学校)

《B会場》
 ワークショップ IV
 功利主義の再検討
 提題者 ※大庭 健(専修大学)
     中尾訓生(山口大学)
     塚田広人(山口大学)
     川本隆史(跡見学園女子大学)

各種国際学会報告

’93 Wuhan International Conference of Philosophy and Logic of Science(1993年武漢科学哲学国際会議)参加報告

 昨年10月2日から7日までの6日間、中国社会科学院・日本科学哲学会・北京大学・武漢大学など8学術団体が主催して、中国湖北省武漢市武昌区所在の武漢大学人文科学館北庁を中心に外国人学者8名を含む参加者約100名が集まり、科学哲学の諸問題全般にわたる3つの全体会議と10の分科会が行われた。本会からは坂本百大会長と小田桐忍会員に報告者藤本だけが参加したが、他に石黒ひで会員と西脇与作会員が当初参加を予定していながら、渡航手続き上の問題が生じて参加できなくなったのは残念なことであった。また、欧米諸国からも Robert S. Cohen(Boston)はじめ何人か著名な科学哲学者が訪中することになっていたが、結局諸般の事情でハワイ大学の Mary Tiles 教授とデルフト大学(オランダ)の Eduard Gras 教授しか参加できなかった。中国側の熱烈歓迎ぶりは身に染みたが、国際会議に関する経験不足のためか、その組織運営が円滑に行われていなかった節がある。

 現在中国は経済の自由化とともに学術の解放や国際化に向け鋭意努力中であるが、今までのところ唯物史観や社会主義イデオロギーに抵触しない広義の科学哲学の分野(生命倫理や価値論や記号論を含む)が連続して国際会議のテーマとなっている。上記会議では、中国人学者の発表にもデュエム、ポパー、クーン、ローティといった名前が引照されていたし、認知科学の解釈学的構造、信念と疑念、アナロジーと理論モデル、法の論理といった論題による研究発表もなされ、数学基礎論や社会科学方法論についての論文もいくつか提出されて、問題意識そのものは我が国の場合とほとんど変わりがないように見えたのだけれども、若干政治演説に近い発表があったのは現中国哲学会の過渡的性格を暗示しているのだろう。しかし、総じては、今後我が国の科学哲学者が協力し応援しうる日中共通の学術領域が現実に拓かれつつあるという印象であった。

(藤本隆志記)


第4回国際語用論会議(4th International Pragmatics Conference)報告

 上記の国際学会が1993年7月25日から30日に神戸市松蔭女子学院大学で開催された。主催者は国際語用論学会(International Pragmatics Association,IPrA)で、本部はベルギーのアントワープ大学に置かれている。今回は日本の日本言語学会、国語学会、英語教育学会、など言語関係の諸学会とさらに、日本認知科学会、日本記号学会などの学際的諸学会の後援を得て日本で初めての大会が開かれた。世界40イ国から言語やコミュニケーションの研究者が集まり、大盛会の学会となった。討議された主要テーマは言語学、言語哲学、テキスト分析、談話分析、社会言語学、言語人類学、神経言語学、記号論、コミュニケーション論、言語行為論、認知言語学など、言語とその使用に関するあらゆる話題が幅広く、かつ、今日的な状況とデータを踏まえた、学際的、国際的なものであった。

 全体テーマは“Cognition and Communication in an International Context”であり、招待講演者として、C. J. Fillmore、M. Shibatani、R. Lakoff、A. Wierz-bicka、Jacob Mey、J. G. Gumperz、という多彩な顔ぶれで、言語の実際使用面での広汎な新局面が、その言語学的側面のみならず、哲学的にも深く討議され、今後の言語研究の一つの新しい方向が示される会議であった。

 筆者も特別講演を依頼され、“Linguistic Ethos of Japanese Thought”と題する講演を英語で行った。日本語の言語の特性が日本思想に影響を与えている、という内容のものであったが、外国人からは意外な話と受け取られ、質問が殺到した。

 総じて、日本において、特に哲学界においてはPragmatics と言えばモンタギュー文法などの話題を想像するのが普通であるが、そのような話題は殆どなく、プラグマティクスという語の不安定さと、逆にこの語の含みもつ内容の豊かさを感じさせるものであった。

(坂本百大記)


 第三回国際生命倫理福井セミナー(3rd Internation-al Bioethics Seminor in Fukui)が「神経難病、ヒトゲノム研究と社会」を大会テーマとして1993年7月19日〜21日に福井市商工会議所を会場として開ゥれた。ヒトゲノム解析の倫理的諸問題を中心に遺伝医学に関する倫理問題が幅広く討議された。出席者は日本以外では米国とフランスが大勢を占め、先端的科学技術のかかえるアセスメントの悩みを論ずるの感があった。米国からはユネスコ、WHO、HUGOなど公的機関の当事者からさらに、遺伝子工学の成果をパテント化して、商業ベースに乗せようと企画する経営者なども参加し、日本人学者と対立する、など遺伝医学の妥当性、と同時に、「科学研究と社会とのかかわり」の問題を考えさせる貴重な学会であった。

 最後に、哲学、倫理学を中心とするセッションが置かれ、筆者は「生命倫理の現代性と、遺伝医学」と題する講演を行った。その中で、非西欧的生命倫理の可能性を問うたが、最近の生命倫理に限界を感じている、とくに米国の生命倫理学者集団から思わぬ共鳴を受けた。生命倫理は21世紀に向けて、もう一歩、哲学的に深めることが必要であるという印象を強くする学会であった。

(坂本百大記)

学会研究会予告

日本科学哲学会第27回大会
 【日 時】平成6年11月19日〜20日
 【場 所】北海道大学


International Conference on the Vienna Circle and Contemporary Science and Philosophy : In Memory of Tscha Hung(ウィーン学団と現代科学ならびに現代科学に関する国際会議:故洪謙北京大学教授追悼記念)

 来る10月21日(金)より24日(月)まで北京市内の新大都飯店ホテルで上記国際会議が中国社会科学院他9つの学術団体主催で開催されることになりました。19イ国から科学者・哲学者が参集するとのこと。本会からも坂本百大会長はじめ竹尾治一郎会員・藤本隆志会員などが関係者として参加する予定ですが、他の会員諸兄姉に参加の御希望があれば、事務局まで御一報下さい。会議通知書/申込書のコピーをお送りします。ただし、論文発表希望者はその要旨3部を7月15日までに、また論文本体(口頭20分程度の長さ)を9月30日までに、それぞれ Professor Qui Renzong(邱仁宗教授)、Institute of Philosophy, Chinese Academy of Social Sciences, 5 Jianguomennei Avenue, Beijing 100732 宛に送付することになっています。会議用語は英語。会議参加費は8月15日までに電信送金すれば250米ドル、それ以後は300米ドル、ホテル宿泊費は一日90米ドル(変更の可能性あり)。会議後25日には万里の長城や明の十三陵へのツアー、26日以後には別料金による中国各地へのツアーも予定されています。


哲学ワークショップ94
 【テーマ】全体論をめぐって
 【日 時】1994年9月10日(土)
 【場 所】於南山大学(名古屋)
   問い合わせ先:南山大学文学部服部裕幸または横山輝雄


COLING−'94, Twelfth International Conference on Computational Linguistics, Kyoto, Japan, August 5−9, 1994.
 問い合わせ先:京都大学工学部電子工学科 長尾 真

三田論理学セミナー「ジャン・イヴ・ジラール博士連続講義」
「線形論理」の導入をはじめとして現在の国際論理学界に非常に大きな影響を与えつづけておられるジャン・イヴ・ジラール博士をお招きして、次のような公開講演を予定しています。
 【日 時】
  (1)5月18日(水)2:40pm〜4:10pm
     一般講演「現代論理学の動向」
  (2)5月21日(土)1:00pm〜5:00pm
     線形論理講義:第1部「線形論理の基礎」
  (3)5月28日(土)1:00pm〜5:00pm
     線形論理講義:第2部「線形論理の最近の進展」
 【場 所】慶応義塾大学三田キャンパス総合図書館地下AVホール
  問い合わせ先:慶応義塾大学文学部哲学科 岡田光弘
  ・ 03-3453-4511(代表) 又は、
  電子メール:logic@abelard.rsch.mita.keio.ac.jp
  ※三田論理学セミナーは毎週土曜日の午後に開催されています。
  セミナーの他のスケジュールについてのお問い合わせも上記宛
  お願いします。


Jean Luc Marion 教授講演会のお知らせ
演題 「La Contribution une nouvelle duinition du pheomme: le pheomne saturuv
 【日 時】平成6年5月17日(火)18:30〜20:00
 【場 所】東京日仏会館会議室


第17回 Wittgenstein Symposium(於オーストリアKirchberg am Wechsel)
 【日 時】1994年8月14日〜21日
 【議 題】The British Tradition in 20th Century Philosophy
      ・.Wittgensteinと英国哲学
      ・.英国観念論とMooreの批判
      ・.B.Russellと同時代の人々
      ・.1930年以降の英国分析哲学
      ・.Collingwood などの分析哲学でない英国哲学者達
  問い合わせ先:慶応義塾大学文学部哲学研究室 石黒ひで


International Union of History and Philosophy of Science 例会(於Poland)
 【日 時】1994年8月
 問い合わせ先:慶応義塾大学文学部哲学研究室 石黒ひで


International Union of History and Philosophy of Science 10th International Congress of Logic, Methodology and Philosophy of Science
 【日 時】1995年8月19日〜25日
 【場 所】Palazzo dei Congressi, Piazza Adua 1,
      Florence, Italy
  問い合わせ先:LMPS, Centro Servizi Segreteria
         Via A. Lapini, 1 50136 Florence, Italy
  ・ 39-55-670182, Fax: 39-55-660236


Maastricht session of the Second International Maastricht-Lodz Duo Colloquium on “Translation and Meaning”
 【日 時】1995年4月19日〜22日
 【場 所】Maastricht, The Netherlands
  問い合わせ先:Drs. Marcel Thelen, Faculty of Translating and
  Interpreting, Rijkshogeschool Maastricht, P.O. Box 964,
  NL-6200 AZ Maastricht, The Netherlands.
  Tel.: +31 43 46 66 40 or +31 43 46 64 71(direct line).
  Fax: +31 43 46 66 49

寄贈図書紹介(平成5年4月以降)

稲垣久和著  『知と信の構造』 ヨルダン社

鹿子島達男著 『続「能動和」哲学の提言』 海鳥社

R.M.ヘア著(内井惣七・山内友三郎監訳)『道徳的に考えること』  勁草書房

編集後記

 この度、ニューズレター第一号を刊行することになり、数年前からの企画が漸く実現することになりました。すでに多くの学会がニューズレターを定期的に出し、その中には機関誌以上にニューズレターが充実している学会もあります。自然科学の分野では内外ともニューズレター重視の傾向が定着しています。本学会では昨年度の理事会の決定に従い、暫定的に編集委員会がニューズレターの編集を担当することになりました。最初の試みであるため、幾つかのニューズレターを参考にしながら、また許された予算の範囲内で、会員諸兄に有意義な情報を提供するとともに、相互の交流が実現することを事務局の協力をいただきながら考えてみました。

 第一号ということもあり、広く有意義な情報を収集し、便宜を図るという目的は十分とはいきませんでした。それでも幾つかの情報を提供して頂き感謝しております。どのような内容のニューズレターに育てていくか、ぜひ皆様のご意見を承りたいと考えております。ニューズレター刊行の実際上の手続き・方法等は早急に整備しようと考えておりますが、その形式・内容につきましては、既存の形式にこだわらず、できるだけ皆様の企画されている研究会等の紹介・通知、内外で開催されるセミナーやシンポジウムの案内・報告等積極的にお寄せ頂き、学会活動の活性化に結びつけていきたいと思っております。

 ご協力の程宜しくお願い致します。

(西脇与作)


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