2012年度石本基金若手研究助成 結果報告

2012年度の「石本基金 若手研究助成」審査結果は、以下のようになりましたのでご報告いたします。

審査員:出口康夫 (作業部会長) 加地大介 関口浩喜 北島雄一郎

審査結果:全5件の応募のうち、以下の2件を採用とした。

採用者及び研究題目

助成金額:1名につき50万円(期間:2012年4月−2014年3月)

審査経過

 今回応募者は全体で5 名であった。各応募者の研究計画を審査委員に回し、審査委員ごとの評価を出した上で、全体の総合評価を行うという従来の方式を踏襲して審査を行った。

 以下、今回採用の二名の研究計画について簡単に触れておく。

薄井尚樹氏「「生得的な心」の可能性」

 「自分や他人に心が備わっている」という考えは、我々にとって生まれつきのものか、それとも経験的に獲得されたものか。「心の生得説」と「経験説」の間の対立として語られてきた、この二者択一的な問題設定自体を批判的に乗り越えることを、本研究は目指している。その手がかりとして、申請者が着目するのが「生得性」概念である。本研究は、「心」の「生得性」という概念を、「遺伝」や「発生」といった生物学的なメカニズムから明確に切り離した上で、自分や他人に「心」を帰属させる際に我々が用いている「非経験的な前提」として位置づけ直そうとする。その上で、「心」帰属において生得的(非経験的)な前提と経験的なプロセスの双方が、互いにいかに密接にかかわり合っているかを明らかにしようとするのである。本申請は、デイヴィッドソンやスティッチの理論といった、現代哲学における代表的な先行学説の詳細で明確な分析を踏まえた野心的な計画である点が、審査員によって高く評価された。

上田知夫氏「信念報告の意味理解:信念述語の副詞説を用いた説明」

 ‘X believes that P .’ という信念報告発話の意味を適切に理解するためには、そこに登場する信念述語 ‘believe’ を文法的にどう捉えたらよいのか。この問題を巡っては、信念述語は、「信念保有者Xと(抽象的な命題と見なされた)信念内容Pの間の二項関係」を表現していると主張する「関係説」と、それを「様相」概念と類比的に捉え、Pを修飾する副詞(言い換えると、Pにかかる文オペレーター)と見なす「副詞説」の両説が対立してきた。申請者は、日本語・英語・ドイツ語に関する言語学の研究成果等を踏まえ、「副詞説」を擁護するとともに、(「個々の発話の意味内容は、その発話が推論関係の中で果たす役割に他ならない」とする)「概念的役割意味論」を動員することで、「副詞説」の立場に立つ、信念報告発話の意味理解の枠組みを提案しようとする。本研究は、言語哲学のみならず言語学の最新の知見をも視野に入れたものとして、審査員の評価を集めた。

「若手研究助成」作業部会長 出口康夫

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