2013年度石本基金若手研究助成 結果報告

2013年度の「石本基金 若手研究助成」審査結果は、以下のようになりましたのでご報告いたします。

審査員:出口康夫 (作業部会長) 加地大介 関口浩喜 北島雄一郎

審査結果:全5件の応募のうち、以下の2件を採用とした。

採用者及び研究題目

助成金額:1名につき50万円(期間:2013年4月−2015年3月)

審査経過

 今回応募者は全体で5 名であった。各応募者の研究計画を審査委員に回し、審査委員ごとの評価を出した上で、全体の総合評価を行うという従来の方式を踏襲して審査を行った。

 なお今年度の申請書類の中には、所定のスペースを大幅に超過したものが見受けられた。決められた分量を守ることは、審査の公平性を確保するためにも重要な約束事である。以前、審査委員長から同様の注意喚起がなされたが、今回改めて、申請書の所定スペースを遵守することを、来年度以降の申請者にお願いしたい。

 以下、今回採用の二名の研究計画について簡単に触れておく。

島村修平氏「推論主義に対する哲学的検討とそれを用いた内容外在主義と自己知の両立問題解消の試み」

 本計画は、R.ブランダムによって提唱され、現在進行形で展開されている新たな意味論である「推論主義」を検討することで、その独自性を明らかにしつつ、それが持つ哲学的な利点を具体的に示そうとするものである。推論主義とは、言語と非言語的対象との間の「表象」関係によって「意味」や「推論」を説明する「表象主義的意味論」に対抗して、その説明関係を逆転させ、推論の実践という観点から「意味」と「表象」を説明しようとする意味論である。この推論主義は、通常、概念役割意味論の一種とも理解されている。が、「信念の内容は、その信念を抱いている当の人物の心の「外」にある事態によって決定されている」という「内容外在主義」を、全面的に受け入れうる点で、推論主語は従来の概念役割意味論と一線を画し、同時に、表象主義に対する真のオールタナティブたりえている、と申請者は見る。また、内容外在主義と整合的な推論主義の立場に立てば、<その外在主義と、「自らの信念内容は、外の世界についての経験知なしにアプリオリに知りうる」という「アプリオリな自己知」という考えをいかに両立させうるか>という、現代哲学の一つの難題に対して、明快で自然な回答を与えることができる、という見通しを申請者は持っている。申請者によれば、これこそが、推論主義が持つ一つの大きな長所なのである。本申請は、推論主義とそれを取り巻く現代哲学の議論状況についての正確で広汎な知識に裏付けられつつ、推論主義に対する独自の貢献をなすことを目指す、野心的な研究計画として、審査員によって高く評価された。

田中泉吏氏「断続平衡説の再検討」

 断続平衡説とは、1970年代初めにエルドリッジとグールドによって提唱された、生物の進化のマクロなあり方についての説である。それは、「生物は連続的・漸進的に進化する」とする、従来の系統漸進説に反して、「生物の進化の歴史には、短期間に急激に種の分化と進化が起る時期と、ほとんど進化が生じない安定的な時期がある」と主張する。本研究は、この断続進化説の内実を多角的に分析するとともに、それが持つ生物学の哲学に対する含意を明らかにすることを目指している。申請者の見るところ、この断続平衡説は、地層中の化石をもとに、地層が形成された順番や時代を特定することを目指す、古生物学の一分野「生層序学(biostratigraphy)」から生まれた進化説であり、生物学や遺伝学をバックボーンとする、その他の進化学説とは、その出自を異にしている。この異質性のゆえ、断続平衡説と、例えば現代の進化論の主流である「進化の総合説」との間の関係は不明確なものに留まっていると、申請者は診断する。両者の出自の違いを踏まえつつ、それらの間の関係を解明することで、例えば「科学は、どこまで統合されているのか」という科学哲学的問題に申請者は答えようとしている。本研究は、世界的に見ても未開拓である、断続平衡説ひいては古生物学の哲学を、専門家と共同して開拓しようとする意欲的な研究プロジェクトとして、審査員から高い評価を得た。

「若手研究助成」作業部会長 出口康夫

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